インタビューインタビュー

馬と人インタビュー 第6回 八丸由紀子

  • 更新日:
    2013年03月22日

馬とともに生きる暮らしの中には、人間の成長にとって、大事なヒントが隠されていた。

馬を活かし、馬に活かされる社会の創造を目指したい。
盛岡より国道282号線を北上しながら、八幡平市との境で牧場を探していると、可愛い牧場の看板が目に入ってきた。看板通りに曲がろうとした道は、奥には畑が広がる「あぜ道」。一瞬、悩んだが看板を信じ、まっすぐ進むと、そこに可愛い馬達が現れてくれた。盛岡市玉山区、雄大な岩手山、優雅な姫神山を両方に望むことができ、静かでゆっくりとした時間が流れている八丸牧場を訪れた。
ゼロからスタートした八丸牧場

以前は有名企業で働いていた八丸由紀子さん。
動物と接する仕事がしたいと関連会社への転勤希望を出し、乗馬クラブに配属されたのが馬と関わるきっかけとなった。だが、接していくにつれ、馬の世話の仕方や調教の仕方について様々な葛藤に直面した。その時、一人の師匠との出会いが、馬への接し方について葛藤を解消するきっかけとなり、現在、八丸さんが馬と共に生きたいと思う原点ともなった。しかし、その乗馬クラブも解散する事が決まり、馬たちの居場所がなくなることを知ると、自分が担当していた馬を引き取りたいとの気持ちが募り、貯蓄をはたいて馬を会社から購入した。そして、「馬を活かし、馬に活かされる社会の創造を目指したい。また、馬と共に暮らし、馬の持つ素晴らしい魅力を多くの方達に発信したい。」という思いを叶えるべく、2004年春、盛岡市玉山区に約1.5ヘクタール(4500坪)の牧場を、多くの仲間の協力を得ながらスタートしたのであった。

手作りで作った八丸牧場からは、岩手山が望める

のびのびと育てられる馬たち

充実した馬との生活

そんな八丸さんに私達は、ゼロからのスタートであり、大変な苦労もされたのでは?と投げかけてみると、意外な答えが返ってきた。『独立してから、苦労を余り感じないんです。以前は馬の福祉を考えると、「こうしたいな」って思うとき、馬にこういう看病をしてあげたいと思っても、決定権が自分になかったのです。「そこまでの看病はいらない。」となる場合もあったり、妥協をしないといけないこともありました。注射一本打てば…となるときもありました。馬に対して持っている自分の信念を曲げないといけない時の方が辛かった。それ以外は、なにも苦痛じゃないんです。今は夏休みとか、お正月とかないけれど、もし休みがあったとしても、きっと牧場に来て馬と接していると思います。休みが欲しくてたまらない人というのは、仕事に行っている時間がきっと辛いんだと思うのです。だから自分は今、違うステージにいるのだと思います。馬に携わっているおかげで、人生を豊かにしてもらっています。逆に出張で牧場を離れることが続くときは、「早く牧場に帰りたいなぁ」と思ってしまうほど、充実した日々を過ごしているんです。』素敵な笑顔が八丸さんの充実した日々を物語っていた。

馬への思い「馬との関わり」

八丸さんは、馬との関わり方について、『馬は従わせるものという考え方はもう古いと思っています。今までの調教は馬に強制したり恐怖心を与えたりしながら調教していたから、馬にストレスがかかるのです。だから人間を大嫌いになっていくのです。現に人間が寄ると威嚇したりしてくる馬たちがたくさんいます。それが、イコール馬が危険な動物だと思われてしまう原因にもなっています。馬のペースに合わせ、馬たちに寄り添い、馬と人が心通じ合うまで地道に時間をかけ、ケアしていくよう心がけています。』ケアする上で何が必要か聞いてみると、『馬語を理解するのが必要ですね。例えばフランス人を理解しようと思えば、フランス語を理解しようとするじゃないですか。馬と心通い合わせたければ、馬語を理解する必要があるのです。人間からの一方的な愛情ではなくて、馬には馬の社会のルール、交わし合っている馬語があるのです。馬の心理や馬語がわからずして、馬と共同作業ができるはずがないのです。昔ながらの人たちは馬を使って仕事をし、馬と共に生き、馬に敬意を払っていた。だから、そのような人たちは馬たちを、まず怒ったり怒鳴ったりなんてしないんですよ。』馬にも人間にも敬意を払い、接している八丸さんの人間性が言葉からにじみ出ていた。

馬とのコミュニケーション

このようにコミュニケーションを大事にする八丸牧場ではお客様に対してすぐに馬には乗せない。最初に行うことは、馬の心理構造について理解するための講義である。「馬は乗り物ではないから、心のある動物だから。」という部分を乗る人に忘れてほしくないという思いが根幹にある。『馬も信頼関係のある人間との仕事に、喜びを感じるんです。』その言葉を聞き、私達は馬に接する際、自分だけ楽しんでいた事を反省した。これからはもっと馬に信頼される事を意識して馬に接していきたいな、と思った。

馬立県

八丸さんは以前、ドリームプラン・プレゼンテーションで「岩手県を馬手県にしたい」と提案した事がある。例えば騎乗警察がいたり、VIPを公用馬車でお迎えしたりするようなワーキングホースの創出。色んな分野で馬たちが活躍する機会を増やし、馬と共に豊かな地域づくりを目指していく。そのためのビジネスとしてどのように「価値化」するのかが必要。『ただ、馬の数が増えるのではなく、馬にも達成感を感じるような適度な仕事を用意し、私たちとの間にパートナーシップを育み、馬の福祉を向上させて、幸せな馬をいっぱい育てていくことにこだわっていきたいです。』その提案を実現しようと今、八丸さんは動き出している。
八丸牧場の八丸由紀子さんは、元気だった。健康であり「元気」。最後に馬の魅力について聞いてみた。そしたら馬の魅力を語るに相応しい言葉が見つからなくて上手く伝えられないと答えてくれた。『今までも様々な取材が終わったときに、「こんな言葉では表しきれなかった」と後悔することもあったんです。魅力は、言葉ではなく、感じるものだから。言葉になりません。』その言葉が、八丸さんが馬に対する想いの大きさなのだと感じ取れた。井戸端会議のような温かい空気を感じながら、あっという間のインタビューを終え、私たちは、八丸さんに手を振って帰り路についた。12月の慌ただしさに、私たちは少し疲れていた。だが笑顔で馬への敬意、他者への敬意を話されていた八丸さんのお話を聞き『そうか、馬と人の関係性は、人間性も温かくしてくれるものなんだ。』帰り際、ラーメンをすすりながら、私達はそう話し合った。私達も、すっかり元気になっていた。(2012年12月3日 八丸牧場にて取材)

プロフィール

八丸由紀子

八戸市出身。現在、盛岡市玉山区在住。
高校を卒業し上京。東京の会社勤務を経て、岩手県内のリゾート総合会社へ転勤。交換研修生としてカナダ・ウィスラー(リゾート地)のホテルに4ヶ月出向。帰国1年後、勤務先の乗馬クラブが突然廃止となり、リストラを経験する。のちに大手観光農場、その後、乗用馬トレーニングセンターに勤務。

2003年1月 「80エンタープライズ,INC」を設立 代表取締役に就任
~馬事普及とコーチングを中心に事業展開
~2004年4月 牧場を自ら開墾 、オープン
~2005年11月 盛岡市内で馬車を試験運行し、定期運行をめざす
2006年4月~2008年3月 毎週木曜日 IBCラジオ 「イヴニング・ナビゲーション」でコーチング番組を担当
2008年12月 任期満了で代表取締役を退任
2009年1月 専務取締役就任
2009年2月 フジTV「奇跡体験 アンビリーバボー」にて、“愛馬との絆が生んだ奇跡”と題して番組が作成され、TV放送された。

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