インタビューインタビュー

馬と人インタビュー 第5回 岩手大学馬術部

  • 更新日:
    2012年12月28日

馬と共に。友と共に。 キャンパスライフを送る 北東北の玄関口、盛岡駅から少し北に行った場所に、緑に囲まれ、若い息吹が流れる岩手大学がある。キャンパスを横切り、奥にある岩手大学馬術部の部室兼厩舎を訪れた。 岩手大学馬術部を [...]

岩手大学馬術部のメンバー

馬と共に。友と共に。 キャンパスライフを送る

北東北の玄関口、盛岡駅から少し北に行った場所に、緑に囲まれ、若い息吹が流れる岩手大学がある。キャンパスを横切り、奥にある岩手大学馬術部の部室兼厩舎を訪れた。

岩手大学馬術部を初めて知ったのは、毎年9月中旬に盛岡八幡宮で行われる例大祭で奉納される流鏑馬を取材した時であった。矢を射った射手奉行を賞賛しながら馬場を走り抜く介添奉行の役として、若者が馬で駆け抜けていった。観衆も若い彼らにひときわ大きな声援を送っていた。
印象に残っていたのが、他の部員達が華やかな流鏑馬の舞台の陰で、馬の世話をしていたり、普段馬術部では使わない鞍を皆で力を合わせながら一生懸命装着させていた姿だった。流鏑馬の儀式が終了した後に、声をかけた部員全員の晴れ晴れした笑顔が印象深かったのである。

取材で訪ねた日はたまたま、翌日に大学行事があるとのことで、午前中で授業が終了し、昼間に部会を終え、各自、馬の世話をする人や直前に岩手大学の馬場で行われた大会の片付けをする人など分担しながら作業を行っている最中であった。皆仲良く、若さあふれる声が飛びかい、お互いに教えあう姿、馬と向き合っている姿は、やはり微笑ましい。佐藤部長(3年生)にお話を伺った。

馬との出会い
岩手大学馬術部は、岩手大学の前身となる盛岡高等農林学校時代から数えて100年以上の歴史を持つ。現在(2012年11月)の部員は 1年生5人 2年生7人 3年生4人 4年生1名の計17名。ほとんどのメンバーが大学に入ってから初めて馬と触れ合う。今まで馬と関わりがなかったのになぜ馬術部に入ったのか聞いてみると、「新入生歓迎会の際に、馬に一目惚れした。」「動物と触れ合いたかった。」「大学に入って新しい事に挑戦したかった時に馬と出会った。」と、皆、口々に馬に惹きつけられた出会いがあったから、この部に入部したことを教えてくれた。

岩手大学の馬場

馬とコミュニケーション取りながら世話をする


馬術とは

  馬術競技の種類は馬の特性を生かした様々な競技があり、大きな括りとして障害飛越競技(Show Jump)、馬場馬術競技(Dressage)、ウエスタン競技、エンデュランス競技などが挙げられる。日本の学生馬術競技においては、馬場内に設置された障害コースを規定時間内で走行し、走行タイムと減点方式で順位を競う「障害飛越競技」、規定の経路を演技し、馬の従順性、運動の正確さ、ライダーの状態等を3人〜5人のジャッジが採点する採点方式(簡単に言えば技術と美しさを競うフィギュアスケートのショートとフリー演技のような競技) の「 馬場馬術競技」、馬場馬術競技(調教審査)、野外クロスカントリー(耐久審査)、障害飛越競技(余力審査)の3つの競技を通常3日間で行う 「総合馬術競技」が行われている。

 

代々の学生と共に過ごしているエトワール

馬と共に成長

岩手大学馬術部では、4月に新入生を募集や勧誘して部員を増やし、その後は毎月1~2回の大会への出場を活動の軸としている。大会へ参加して技術向上に努め、11月の全日本学生賞典という全国大会への出場を目指して練習に励んでいる。
また馬術だけではなく、チャグチャグ馬コのお手伝い、盛岡八幡宮で介添奉行、大学祭で体験乗馬を実施したりと、岩手県内の馬事文化に大きく貢献もしている。
部活は、早朝5時半に全員集合して開始。各自担当している馬の身の回りの世話をしたり、馬場で馬術の練習をしている。その後、授業が始まる時間になると、各自授業を受けに学舎に向かう。

佐藤部長は「馬の世話をしているおかげで朝早く大学に来てしまうので、授業中眠かったりするのですが(笑)、授業には休まずちゃんと出れるんですよ。」と笑顔で答えてくれた。また馬の食事や世話は朝・昼・夕・夜とあるのだが、昼以降は毎日当番制で行っているとのことで、「馬につきっきりというイメージがあるのですが、皆で協力しながら馬の世話をしているので、意外と夕方以降はキャンパスライフも楽しんでいます(笑)」とのこと。
話しを聞いていると馬術部メンバーの学生生活は授業を受け、馬の世話をし、練習もして、その後アルバイトがあったりという充実の毎日。ただ本人たちは「馬の世話は勿論大変ですが、接していると可愛くて癒されるし、他の学生には真似できないことができている。それに毎日、クラブのみんなとも顔を合わせられるので楽しんでます。」と充実した日々を送っている様子。

馬との生活についてどのような魅力があるのか聞いてみると「馬術といっても、馬は乗る道具でなく、感情がある馬と一体となってこそ行えるスポーツであるから、馬と共に成長していけるのが実感できるし、馬と触れ合っていく時間が増えていくことでいろんな意味で自分たちを大人にさせてもらっている所が魅力なのだと思います。例えば馬の世話や練習では色んな作業が出てくるんです。突然、最優先にしなければならない事もでてくる。そういう経験をさせてもらっているおかげで、先々を予見しながら行動を考えるようになりましたし、馬の世話だけでなく日常の様々なところで効率良く作業ができるようになった気がします。また、行きたくないなと思うこともちょっとはあるのですが(笑)、自分たちは馬の命を預けられている立場であるし、行かないと行かないで何かあったらと心配になるので、責任感もでてきました。」と。

馬に乗って楽しそう

友と共に日々成長中


昔に比べて岩手でも日常で馬と関わる生活や馬と関わる機会が少なくなっているのが実情である。最後に、馬と関わっている若者として、馬と人の関わりについてどうのよう感じているか聞いてみると、「このように馬と接することができたから言えるのかもしれませんが、馬と過ごすというのは人間にとっても地球環境にとっても理想的な形なのでは、と思います。馬に仕事を手伝ってもらい、馬から肥料をもらい、食物を育てる。そのような循環した生活が理想です。でも、どうしても時間とお金がかかりますよね。」と。

それでも馬と関わり暮らしていく生活に対するまなざしは熱い。

馬と一緒に生活したい。しかし現代の私たちの生活と馬をどのように結びつけていくか。そのギャップをどのように埋めていくか、そこに馬と人との関わりをもっと日常にしていくヒントがある。岩手の大学生たちが見つけたこのピュアな「気づき」から、馬と人を見つめなおすきっかけをもらった。(2012年11月21日)

プロフィール

岩手大学 馬術部

岩手大学の前身となる盛岡高等農林学校時代から数えて約100年以上の歴史を持つ。
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